蝉鳴く季節に…
膝の上、固く握りしめた両手。



それだけを見つめながら、私は堪えた。




込み上げる感情を必死で……。






今泣いても、それは自分の為だ。

情けない自分を慰めるだけの意味しか無い涙だ。



そんな涙を、杉山くんを偲ぶ場所で流しちゃいけない。







固く瞳を閉じる。








暗闇に支配された視界、ふと……温かさが私の手に触れた。





ゆっくりと、瞳を開いた。







私の固く握りしめた手に添えられた温もり………。


おばさんの手……。












「泣いていいのよ、千秋ちゃん」

「……おばさん………」

「あなたには、お礼を言いたいくらいなの。千秋ちゃんが来てくれる様になってから、夏生は楽しそうだった」

「…でも、私………」

「あの子、千秋ちゃんが好きだったのよ?退院できたら、はっきり伝えるんだって……笑っていたの」

「……………」














ああ…………そうか……。









私は杉山くんから、その二文字を聞いた事が無かった。











杉山くんは、言わなかったんだね?


その言葉が、どんなに眩しいものか理解していたから。



大切な言葉か、理解していたから。








だからこそ……言わなかったんだね。


< 119 / 131 >

この作品をシェア

pagetop