蝉鳴く季節に…
「ありがとう、わざわざ届けてくれて。えと…」

「水谷です…水谷千秋」

「うん、水谷さん。ありがとう」






彼が笑った。


私をまっすぐに見つめ、笑った。













不思議だった。






私も、自然と笑えてた。








それが、杉山夏生との出会い。














病室の窓、見える中庭に立つポプラの木。


緩い風に揺れる、細い枝。







蜃気楼みたいに漂う景色の中、蝉が鳴いてた。








まるで、私の中にある何かを覚醒させるかの様に……蝉が……鳴いてたんだ…。














< 12 / 131 >

この作品をシェア

pagetop