蝉鳴く季節に…
好きっていう言葉が無くても、それに気付けないくらいに、幸せだったの。





杉山くんを好きになれて、良かった。






出会えて良かった。







本当に本当に………良かった。











おばさんにお礼を言い、私は会場を出た。



待ってましたとばかりに身体にまとわりつく、夏の蒸した空気。







青い空、高い空。


流れる涙を手の甲で拭い、吸い込まれる様に深呼吸をした。






閉じた瞳、耳に響く力強い蝉の声。











『蝉は八年土の中にいて、たったひと夏の太陽を仰ぐ為に出てくるんだ』







白い部屋。

温い風に煽られるカーテン。



窓の外、揺れるポプラの枝。









『何か、蝉ってかわいそうだね』

『そう?俺は眩しいと思うよ?限りある命だからこそ、あいつらは命一杯鳴くんだ』








眩しいね…。



杉山くん、あなたも眩しかったよ。







頑張ったね。


一杯、鳴いたね。


諦めないで、走ったね。






お疲れ様。


お疲れ様、杉山くん。





そして、ありがとう……。
< 122 / 131 >

この作品をシェア

pagetop