蝉鳴く季節に…
新木くんは、白いワイシャツにネクタイのスーツ姿。


スラックスのポケットに両手を突っ込んだまま、部屋の中を見渡す。






「ずいぶん片付いたんだな?殺風景になったね」

「朝からやってるもん。それよりその姿…まさか外回りの途中?」

「うん」

「いいの?仕事中に」

「近くまで来たからさ。千秋とお昼食べようと思って」






そう言い、新木くんは嬉しそうに笑う。



こんな風に笑われると、何も言えなくなっちゃうんだ。






「お昼、まだ用意してないよ?」

「ちょうどいいじゃん、お母さんも誘って外で食べよう」

「私、汗臭いよ?」

「全然平気!俺の方が臭うかもよ?」








ほらね?と、新木くんは私の腕を掴み、胸へと引き寄せる。





「ほら、臭いだろ?」

「ぷっ……臭くないよ!」






抱きしめられながら、思わず笑った。



私は彼の、こういう所が好き。







新木くんとは、病院で知り合った。



製薬会社の営業である新木くんは、笑顔がかわいい爽やかな人で、看護師の間では結構人気があるんだ。






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