蝉鳴く季節に…
「荷物、ここでいい?」

「うん、サイドテーブルの上で」



病室に紙袋を運び、指定された場所へと置く。






病室は、やけに殺風景に見えた。

紙袋の隣、活けられた小さなガーベラの鮮やかなオレンジ色が、白い空間の中の唯一のカラーみたいにさえ感じた。





開け放たれた窓から入り混んでくる少し温い風が、白いカーテンを波の様に揺らしている。

まるで、花嫁さんの髪にかかるヴェールみたい。









「暑かったろ?ジュース飲む?」

「え?あ……うん…」

「あまり冷えてないけど…オレンジとコーラどっちがいい?」

「じゃあ…オレンジで…」




ベッドの端に腰を降ろした杉山くんは、背中を丸めてサイドテーブルの下にある小さな備え付けの冷蔵庫を開けている。


白いTシャツに包まれた背中は、更に小さく見えた。







「座ったら?」


笑いながら、丸椅子を勧められた。

差し出されたオレンジジュースを受け取り、椅子に座る。








杉山夏生を見るだけ、そんな好奇心から受けた用事。

済んだらすぐ帰るつもりだったんだけど……。




何で私、くつろいでるんだろ。




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