蝉鳴く季節に…
「…新木くん」

「もしかしたら、その人のおかげで、俺の大好きな今の千秋がいるのかもしれないじゃん」



新木くん………。




「それに、俺は来月には千秋の夫になる訳だし…その時点で俺の勝利!」






ふざけた様に両腕を上げる彼に、思わず笑いが込み上げた。




ホントに新木くんは……素敵な人。




私、新木くんとなら、ずっと笑顔で生きていけると感じる。



支えて、励まして、どんな時も味方でいるよ。







笑う新木くん……。


私は、その手を握りしめた。





「お昼、行こ?」

「そうしよっか」









部屋に背を向けた瞬間、小さな羽ばたきの音が耳をかすめた。



振り向くと、先程まで電柱で鳴いていた蝉が、窓の前を横切るのが見えた。







『蝉は、八年土の中にいて、ひと夏の太陽を仰ぐ為に出てくるんだ』









私はきっと……来年も思い出すだろう。


静かに、杉山くんを偲ぶだろう。








蝉の鳴く季節には、必ず………。







あの人が、今も笑っている様にと祈りながら。









ー終ー


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