蝉鳴く季節に…
「夏にさ、部活の練習してると、周りから蝉が鳴く声が聞こえるんだ」
「…陸上部、だったよね?」
「うん、長距離」
梨絵から聞いてる。
「蝉ってさ、八年間も土の中にいて、たったひと夏の空を仰ぐ為に、地上に出てくるんだ」
「八年?」
八年いて、たったひと夏だけなの?
「…何か、かわいそうだね。蝉って」
「まぁ、人間から見ればね。でも俺は眩しいと思うよ。ひと夏だからこそ、あいつらはあんなに懸命に叫ぶんだ。俺も負けてられないなってさ」
そう言って笑う杉山くんの表情は明るくて、前向きで……。
なのに私は、杉山くんの髪がなぜ無いのかって事ばかり頭によぎっていて……。
なぜあの時、頑張れって言えなかったのかと…そんな自分が今でも恥ずかしくて。
………杉山くんは、あの時、何を知っていたのだろう。
どこまで知っていたのだろう…。
気の利いた言葉が出てこないまま、その時の私はただ、杉山くんが見つめる蝉の鳴き声に耳を傾けるしか出来無かったんだ。
「…陸上部、だったよね?」
「うん、長距離」
梨絵から聞いてる。
「蝉ってさ、八年間も土の中にいて、たったひと夏の空を仰ぐ為に、地上に出てくるんだ」
「八年?」
八年いて、たったひと夏だけなの?
「…何か、かわいそうだね。蝉って」
「まぁ、人間から見ればね。でも俺は眩しいと思うよ。ひと夏だからこそ、あいつらはあんなに懸命に叫ぶんだ。俺も負けてられないなってさ」
そう言って笑う杉山くんの表情は明るくて、前向きで……。
なのに私は、杉山くんの髪がなぜ無いのかって事ばかり頭によぎっていて……。
なぜあの時、頑張れって言えなかったのかと…そんな自分が今でも恥ずかしくて。
………杉山くんは、あの時、何を知っていたのだろう。
どこまで知っていたのだろう…。
気の利いた言葉が出てこないまま、その時の私はただ、杉山くんが見つめる蝉の鳴き声に耳を傾けるしか出来無かったんだ。