蝉鳴く季節に…
「あと、これ……」


私は、花を持つ手をちょっとだけ上げて見せた。



「嘘っ、俺の為に買ってきてくれたとか?」

「あ…杉山くんの為…とかじゃなく……花が一輪じゃ淋しいって思って…」







ああ、もう……。




どうして私は、こんなすねた言い方しかできないんだろ。

こんな自分が、たまらなく嫌になる。






……杉山くん、気分悪くしたよね。







ちらりと視線を上げた。


杉山くんは……笑ってた。




「気ぃ使わせちゃって悪いな。でも、気付いてくれたのがすげぇ嬉しい」





あれ?

大丈夫みたい?






「俺、花とか無頓着だから。水谷って気付ける人なんだ。すごいな」







すごい?
私が?
気分を害させる所か、誉められてる…。





杉山くんって、何かおかしい。
でも、何だか心がポカポカする感じ。









「水谷、何笑ってんの?」

「ううん、私、花活けておくね」







水道で水を替え、買ってきた花を挿した。



薄いクリーム色した丸い陶器の花瓶の中で揺れる、ガーベラとかすみ草。




何だろ。

何か、誇らしげな気分が湧き上がった。
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