蝉鳴く季節に…
病室に戻ると、杉山くんは冷蔵庫を開いていた。




「今日は何にしますか?水谷様」



水谷様って…。



「え?いいよ。私すぐ帰るから」




いつまでもいたら悪いし。








「そう言わずに、一杯やってけば?」



おどけた様に笑い、杉山くんは冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。



細い指をかけ、プルタブを上げる。








「はい、どうぞ。今日はちゃんと冷えてるよ」





プルタブが開けられたジュース。









杉山くんの方が気付ける人だよ。

私が昨日、プルタブが硬くて開けられなかったの覚えてるんだもん。





ホントに何なんだろう、杉山くんって。


調子狂う。






でも、何か楽。











「そういやさ、水谷って下の名前、千秋っていったよな?」

「うん」

「ソレッて秋生まれだから?」

「多分」

「俺も同じ!夏生まれだから夏生」

「いい名前じゃない」

「え〜…まんまじゃね?俺、三人兄弟の末っ子だから、きっと淡泊に名付けられたんだよ。夏生でいいよ!みたいにさ」


淡泊って…表現が面白い。

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