蝉鳴く季節に…
「いいと思うよ?夏生って名前」

「でもさ、兄ちゃん達に小夏って呼ばれてるんだよな。背が伸びなくてさぁ、今でもだけど」




眉をひそめて、軽く唇をとがらせた杉山くん。


子供みたい。

思わずこぼれた笑いを、うつむいて隠した。
気付いた杉山くんは、私の顔を覗き込んできた。



「水谷、小夏の方がいいとか思ったろ?」

「思ってないよ。杉山くん、私より背が高いし」

「そう言うけど、兄ちゃん達は180センチあるしさ」

「高校で身長伸びる人はたくさんいるよ」








杉山くんは、昨日よりもよくしゃべった。



私もつられて、かなり話していたと思う。






何か楽しくて……。








気が付いたら、時計が六時近くになっていたくらい。












「今日はありがとな、水谷。あ…今日も、か」

「ううん、ジュースごちそうさま」





バッグを持ち、立ち上がる。


じゃあ、と笑って見せた私に、杉山くんは言った。






「あのさ、参考書とか別に用事無くてもいいからさ、時々でいいから来てよ」

「……え?」

「水谷が良ければ」





来てって……私に?







「私なんかがいいの?」

「何それ?私なんかがって」

「だって…」




私なんて大して面白くないし、かわいくも無いし……。







「俺は楽しいから、来て欲しいって言ったんだけど、水谷は嫌?」




首を振った。


思いきり振ってた。






それを見た杉山くんは、声を上げて笑った。




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