蝉鳴く季節に…
杉山くんは、時々点滴をしている時もあった。


何の薬かは聞かなかったけれど。




「点滴って嫌いだなぁ。早く入れよってイライラする。エアーポンプとかで圧力かけらんないの?」

「血管に空気が入るとヤバイんだよ?!だからゆっくりなんだから!」



ダメだよ!と焦る私に、杉山くんは冗談だよと爆笑したけど。





「水谷ってすぐムキになるよな、面白い」




面白くないよ……。










杉山くんの病室には、本がたくさん。


中には、私が好きな本もあって、共通な感覚があるのかなって、嬉しくなったりもした。




オグ・マンディーノの“十二番目の天使”とか…。






「これ、いい話だよね?」

「俺めちゃくちゃ泣いたぁ」

「私も泣いた」

「諦めちゃいけないって、思い知らされる。俺の心のバイブルだね」





何回も読み返したと、杉山くんは愛おしそうに、エメラルドグリーン色の表紙を指先で撫でた。










ふと、その瞳が窓に移る。






杉山くんの手の中にある、その本と同じ様な色をしたポプラの葉が、静かに揺れてた。







温い風が、窓のカーテンを静かに揺らす。



その風を、まるでまつ毛に乗せるように、杉山くんはゆっくりと瞳を伏せた。







遠くでは、蝉が合唱してた。



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