蝉鳴く季節に…
「……………走りたいなぁ」







小さな、小さな呟き……。






「汗だらだら流してさ、目に入るくらいに流してさ。蜃気楼の一部になるくらいに走りたいなって思う時あるんだよな」









杉山くんは、長距離選手だ。



高校で続けていたら、間違いなく県の強化選手に選ばれたのにって、陸上部の梨絵が悔しそうに言っていた。



うちの高校からは、強化選手は今年も出なかったらしい。







杉山くんがいたら……そういう思いは私だけじゃなくて、みんなが思っている事なんだね。





私が考えるより、杉山くんはたくさんの人に必要とされてると思う。




だから、杉山くんはすごいんだよ。




すごいんだ。










「走れるよ……」

「え?何?」

「杉山くんは、また走れるよ。みんな待ってるんだから。梨絵が言ってたよ!陸上部では、みんな杉山くんが復活するの待ってるんだからって!」

「水谷?」

「私…私だって…杉山くんが走る姿見たい。見た事無いんだもん」







杉山くんは、驚いた様に目をしばたかせた。








「水谷…お前、自分の意見を貫けるまでに成長して」

「……からかわないでよ」




すねる私…杉山くんは、ゴメンと笑う。


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