蝉鳴く季節に…
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放課後、まだ高い太陽の熱は、外へと出た私の肌を容赦無く焼きはじめる。



じりじりと、皮膚の表面から水分を奪うような日差し。




蒸し暑いと言うより、焼け付く様な暑さだ。









部活に行く梨絵と別れ、私は校門を出る。




春になるとピンクの雪を散らせる桜並木は青々と葉を茂らせ、悠々と太陽のシャワーを浴びていた。




過ぎ去るだろう夏の栄養を、冬越えに備えて蓄えているみたいに。








見上げると、蝉が鳴いていた。


桜の幹、必死にしがみつき、その小さな身体からと思う程の力強い声。







「油蝉…」






指差し呟いて、笑った。


笑いながら今日も、杉山くんのいる病院へと向かった。

















病院は涼しい。


ひんやりとした空気が、床に添って流れてるみたいな涼しさって言うのかな。


足元から上がってくる感じ。





入院患者の身体を考え、夜以外はあまりエアコンはつかないよと、杉山くんは言っていたけど、なぜかいつも病院の気温は低い気がする。



気分の問題なのかな?










それよりも今日は、杉山くんに話したい事がたくさんある。



変わるって、初めて体感できたよって、嬉しかったんだって。



今だってまだ話の整理はついていないけど、とにかく早く伝えたくて…。



ただ、話がしたくて。



杉山くんの表情が、笑顔が見たくて。


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