蝉鳴く季節に…
「水谷」



友人と教室でふざけていた私は、担任の教師から呼ばれて顔を上げた。






夏、高校一年生の夏。


高校に入って、少し大人になった様に感じていた最初の夏。
わずか三週間後に迫った夏休みを前に、友人とはしゃぎながら話していた時の事だ。






「水谷の家は、森総合病院の近所だったよな?」




体育教師である担任の濱田先生は、夏だと思い知るくらいに日焼けした顔に、白い歯を浮かべながら笑う。




「はい、歩いて二分くらいのとこですけど…」





近所だと、何かあるのかな。



そんな疑問が、自然と口調に現れていたのだろう。

濱田先生は、笑顔に申し訳なさそうな色を浮かべつつ、茶色の紙袋をかざして見せた。





「帰りに頼まれてくれないか?」

「用件によりますけど」

「この紙袋を届けて欲しいんだ。杉山にさ」

「杉山?」





聞いた事がある名前。

でも誰だったかな?

でも、どこかで聞いた気がする…。
どこだったかな。




眉をひそめる私の隣、机に座っていた親友の梨絵が、思い出した様にあいづちを打った。




「杉山って、杉山夏生だよね?」







杉山夏生?

誰?





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