蝉鳴く季節に…
「ねぇ……杉山くん…眠ってるんだよね」





………動かない。






杉山くん………笑って?


目を覚まして笑ってよ?



私、走って来たんだ。

走るの苦手だけど、ここまで走って来たんだよ?

階段も七階まで登りきったよ?




杉山くんの長距離タイムには敵わないけど、私…走ったよ?





だから………笑ってよ。







よく走ったなって、褒めてよ。






ありがとうって言うから…私…ありがとうって笑うから。









杉山くん………。


ねぇ………杉山くん?









「杉山…くん!」











「……………ん?」









…………今、杉山くんのまぶたが動いた。



動いたよ!








「杉山くん!」

「……何?」








杉山くんの瞳が、重そうにゆっくりと開いた。








「杉山くん…」

「え…あれ?…水谷…」







……杉山くんだ。

杉山くんの声だ。
聞きたかった優しい声だ。





「杉山くん…」







涙が溢れた。


安心して…すごくホッとして……。
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