蝉鳴く季節に…
でも、次に顔を上げた杉山くんは笑ってた。



笑っていたから…私はホッとした。


安心してしまったんだ。







杉山くんのその暗い表情が示す意味を、深く考えもしないで………安心してしまったんだ。









「矢代の奴、でたらめな事言いやがって。今度見舞いに来たらいじめてやる」

「そんなっ!ダメだよ」

「俺が許せないの!だってそのでたらめで、水谷が驚いたんだろ?」

「……う…うん」

「だからお仕置き。水谷を不安にさせたお仕置き」









笑う杉山くん。

大きな瞳を細めて、優しい表情で。



杉山くん…杉山くん……。


いつもの杉山くんだ。






「水谷、汗だくだけど走って来たの?」

「うん、学校から走って来たの」

「学校から?!5キロはあるだろ」

「階段も走ったの」

「七階まで?!」

「エレベーター、待ちきれなくて」

「マジかよ!」







杉山くんは爆笑した。

その声は蝉にも負けない力強い声で、無機質な空間だった病室に、清涼な風を吹かせる様な声で。



本当に、安心したんだ。




杉山くんは大丈夫なんだって。
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