蝉鳴く季節に…
私はあの時、その場から離れたいって事しか無かった。

見たくなかったから、認めたくなかったから。



逃げる事しか考えていなかったの。





勝手に誤解して、杉山くんから逃げて、追い掛けて来てくれてる杉山くんに気付けないくらいに思い込んでいた。








私がもっと気付ける人間だったら、杉山くんを振り返る事ができたのに。


私にもっと勇気があれば、会えない時間だって必要無かったのに…。






ベッドから起き上がる時、きつそうに身体を支えていた杉山くん……。



走って追い掛けて来てくれていたのに!









涙が……こぼれた。







杉山くん……杉山くん…。








背中から肩を包み込む、杉山くんの腕。


夏なのに白い腕。

細くて…筋肉の微かな名残がある腕。





なのに強くて、温かくて………。








私は両手を上げて、その腕に手の平を添えた…。




「…ごめんね」

「また謝ってる」

「うん…でも…ごめんね」

「謝られる意味がわかんねぇ」





笑う杉山くん。

抱きしめられた腕に、力が入るのを感じた。
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