蝉鳴く季節に…
「でも、点滴は今日は少ないね?」


一つだけ下がった点滴のパック。




「うん、痛み止めらしい」

「痛み?痛みがあるの?」

「たいした痛みじゃないから大丈夫だよ」





痛み止めだけの点滴?
薬じゃなくて痛み止め。


ただ、痛みを和らげるだけの……。





身体に与えられている薬の種類。
痛み止めだけ。




その意味を私は、深く考える事をしなかったんだ。


………できなかったのかな?





認めたく、無かったから……。








外では、蝉が鳴いていた。

空間を裂く様な、高い高い声。




蒸し暑い病室。

微かに私の髪を揺らす、窓からの生温い風。




暑いね?







なのにどうして……杉山くんの身体には汗が無いんだろう。

どうして乾いているんだろう。









「水谷、汗かいてる。暑い?」

「え?……ううん、暑くないよ」





嘘ついた。


暑いのに、嘘ついた。





どうしてだろう。


杉山くんに、汗をかいていない杉山くんに………暑いって言えなかった。








「ジュースあるよ?飲む?」

「うん」
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