蝉鳴く季節に…
手に握りしめた冷えたジュースの缶、湧き出る冷たい水滴が私の指をつたい、無機質な病室の床に水溜まりを作っていく。






風が、カーテンを踊らせる。





………蝉の声。







気が遠くなりそうな……高い……声……。












「……………ごめん」









沈黙を破ったのは、杉山くんの呟く声だった。





「ごめん、変な事聞いてさ。わかんないよな?」

「……………」






どう答えていいのかわからない。




私は、瞳を伏せた。





わかんない………わかんないよ。










「ジュース、温まっちゃうよ?」





杉山くんが笑った。


私は、握りしめた缶を見つめた。


冷たくて、手の平の感覚すらもわかんなくなってる。







「貸して」




うつむく視界に伸びてきた、杉山くんの腕。

白くて細くて…青い血管が浮き出てる腕。






「まだ…冷たいよ?」






私は、濡れた缶をその広げられた手の平に乗せた。





………重く…ないかな?
< 92 / 131 >

この作品をシェア

pagetop