蝉鳴く季節に…
「水谷?」





気が付くと、私は杉山くんの両手を押さえていた。



止めたくて…ただ止めたくて…!







「あの…あのね、私……やっぱりね……コーヒーが飲みたくなったから…ジュースはいらないや」







声が、振動しているのがわかった。




杉山くんの顔が見れない!







「水谷?」

「だからね、ちょっと…売店に行って…買って来るから」





言い切り、私は駆け出していた。


背中に届く、杉山くんの私を呼ぶ声。








ごめんね………。



ごめんね、ごめんね、ごめんね!







私に力が無くてごめんなさい!

かける言葉が無くてごめんなさい!





杉山くん!











走って走って、私は階段を昇った。




込み上げてくる瞳の熱さ、鼻腔の痛み。








プルタブを開けようとしている杉山くんの姿が……困った表情が……頭の中をぐるぐる回って……。







私は階段を登りきり、突き当たりの鉄のドアを開けた。







病院の屋上。







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