では、同居でお願いします
崖っぷちには神がいる
呆然とした時、人は案外落ち着いているものだ。
いや、正確に言えば、取り乱すことさえどうすればいいのかわからず、何もできないのだと実感した。

最後の望みと思っていたのに、またダメだった面接。
まるで自分の全てを否定されたような気分になり落ち込んでしまう。

(って、こんなことをぼんやりと考えている場合じゃないよ!)

歩道に植えられた木の上でセミが揶揄すようにジワジワとうるさく鳴く。
ただでさえ暑い中、着込んだリクルートスーツの黒色が、太陽の熱を吸収してより一層暑い。
汗をぬぐったハンカチをポケットに押し込んで、はあ、と大きな息を吐きだした。

たった今、面接で返却されてしまった履歴書に視線を落とす。
「ご縁がなくて残念です」と、心にもない言葉とともに戻された紙。

「伊波海音(いなみみおん) 二十二歳  女」

貼り付けた写真はこちらをまっすぐに睨むように見つめている。


学歴は普通だけれど、職歴が悲しい。

倒産したのだ。
就職したばかりの会社が、たった三ヶ月で。

意気揚々と入社したのは小さいながらも活気のあるIT関係の会社だった。
今が伸び盛り、年々上昇する業績、活気ある職場。
そんなことを熱く語る若い社長にとても惹かれ、一も二もなく希望した会社だった。

しかし思わぬ落とし穴に落ち込んで、活気ある会社は一気にお通夜モードに陥る。

それは社長のスキャンダルだった。

若くてイケメンの社長は、体育会系の熱血男子な雰囲気とは裏腹に、日夜、女の子をとっかえひっかえするとんでもない遊び人だった。
きっとどこかライバル社の差し金かもしれないが、社長のご乱行の写真がネットに流出。
あっと言う間に拡散され、気がつけばひどい叩きに晒されて、あれよあれよと倒産にまで追い込まれていた。

「バカじゃないの」

女遊びを繰り返す社長の実態を知った時、そう思ったけれど、今は盛大に心の底から叫びたい。

「責任取ってよーーーー! 職返せーーーー!」

精一杯叫びたかった。

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