では、同居でお願いします
だから私は笑みを浮かべて言った。

「特に不安なことはないよ。それにマンションで知り合いの人ができたよ。だから大丈夫」

「へえ、どんな知り合いなの?」

「紀ノ川さんって方なんだけどね。この間、困っていた時に助けてくれて、お礼にお菓子を届けたら、昨日はケーキをお返ししてくれて。お礼にお返ししたらエンドレスになるのにね」

フフッと笑うと、紀ノ川さんの姿が思い出される。


藤川がマンションで待ち伏せしていた時に助けてもらい、温かいミルクティーまでくれた男の人。
お礼に会社の側にある美味しいと評判の焼き菓子を届けた。

「す、すすすみません。お礼なんか、そんな大したことしてないのに」

 驚きながらも「甘い物が好きなので嬉しいです」と恐縮しつつ受け取ってくれた。そうしたら今度はケーキをお返しに渡されてしまった。

紀ノ川さんはきっと根っからいい人なのだろう。

少しおどおどして自信がなさそうに見えるけれど、実直そうな人柄は隠しようもなく態度に表れている。


「そうなんだ。海音ちゃんが仲良くできそうな人ができて、僕も安心した。でも男手が必要なことがあったりしたら、遠慮無く僕を使っていいよ」

「うん、ありがとう。その時はまたお願いします」

ポンポンと優しく頭を二回叩いてくれた。
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