では、同居でお願いします
「井波さん、こんばんは」

「あ、紀ノ川さん。昨日はケーキ、ありがとうございました」

「いえ、あそこのケーキは好物なんです」

ひょろりとした風情で気の弱そうな紀ノ川さんだが、意外と社交性があるのか、見かけると気軽に声をかけてくれる。

もしかしたら、藤川とのやり取りを見ていたので、少し気にかけてくれているのかもしれない。

振り返り、裕哉の車へと手を振ると、運転席の裕哉が目を丸くしながらこちらを見ていた。

「……?」

やけに驚いた目をしているのが不思議で、首をかしげたけれど、一向に裕哉が車を出さないので、気になりつつももう一度手を振ってから、紀ノ川さんとマンションのエントランスをくぐった。

「彼氏さんですか?」

「いいえ、従兄弟です」

「井波さんは、今は彼氏さんはいないのですか?」

意外と踏み込んだ質問をされてしまい、言い淀んだ間に気がついた紀ノ川さんが慌てる。

「いいい、いえ、ああ、あの、ほら、先日の男が……あの、その、彼氏さんがいたら……安心なのになって……その、思いまして……詮索とかではなくて……」

一気にしどろもどろになってしまった紀ノ川さんに、私は頭を下げた。
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