では、同居でお願いします
「けれどある時、彼女から『気持ちを知りたい』と言われて……情けないことに、自分に自信がなかった僕は、逃げの言葉を言ってしまいました」 

――僕はあなたと釣り合わない、と。

「お嬢様で育ってきた彼女が、こう言われることを嫌っていたとも知らず、僕はそんな言葉を言ってしまったのです。冷静になって考えてみれば、彼女は僕に好意を持っていたのかもしれないと、今なら考えられる。でも、あの時はただ、無理だ、釣り合わないなんてことを考えて、後ろばかり向いていました」

「紀ノ川さんは、まだその方のことは好きなのですか?」

問いかけると、ハッと顔を上げ、すぐにまた俯いた。

「多分……ずっと彼女が好きです。でも……今はもう彼氏ができたそうで……。僕がもっと強くなれば、彼女に振り向いてもらえるのかなんて……今でも未練がましく思っています」

「強くって……」

ひょろりとした外見だが、意外と武闘派なのだろうか。それとも彼女の相手が強い男なのだろうか。

「もっともっと、強くなって段位も上がればいいのかなんて……未練です」

「段位……」

空手か柔道など、なにかそんな感じなのだろうか。

密かに紀ノ川さんは強いのかもしれない。だからこそ藤川に迫られて困っていた時、助けてくれたのだろう。
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