では、同居でお願いします
思いの外、とても綺麗な顔をした人だ。

頼り無い雰囲気が先立って顔立ちまで気にしたことはなかったけれど、瞳は理知的でいながら、無垢そうに輝いている。

「……そうですね。彼女の迷惑にならないことばかり考えていましたが、一度くらい、本気でぶつかってみます。どうせ嫌われるのは同じなら、自分のためにだけ行動してみるのも、悪くないかもしれないですね」

へへ、と少し照れて笑った紀ノ川さんは、どこか吹っ切れた表情をしていた。


(私はどうなの?)と紀ノ川さんを見つめながら、自分の心に問いかける。


今の紀ノ川さんは、私と同じのように見える。

彼女がいて、それで諦めてしまって、自分の気持ちを告げることなく諦めてしまっている。相手と不釣り合いだと決めつけて。

でも、とすぐに考え直す。

(裕ちゃんは従兄弟だよ。身内なんだよ?)

紀ノ川さんとは、そこが決定的に違う。しかも今は社長と部下だ。

それでも先程紀ノ川さんに告げた自分の言葉が甦り、何度もリフレインしている。


――本当の気持ちは、伝えない限り自分の中に住み続けて、ずっと相手を忘れられない。言葉にして相手に届けて、初めて昇華できるんじゃないかなって。
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