では、同居でお願いします
裕哉はスムーズに車を発進させてから、話をしてくれた。

私を雇うことになった日に、私の親には連絡をして事情を話していたらしい。

「僕の一存で海音ちゃんの仕事を左右させてしまったから、ちゃんとおばさんたちには伝えておかないとって思ったんだよ」

自分では切り出せなかった話題を、親に話してくれた裕哉には感謝している。

しかしそんな話を聞いたのなら、失職して落ち込んでいるであろう娘を心配して電話でもしてくればいいのに、放任主義、楽観主義のうちの親は、そんな心遣いなどなかったようだ。

(こっちは心配かけまいと黙っていたのに、必要なしだったなんて)

色々と考えすぎるのは悪いクセなのもしれない。

今だって、裕哉に対してまだ気持ちが「申し訳なさ」に傾いている自分がいる。

縁故で入社させたことを後悔していないだろうか、一緒に暮らすなんて迷惑じゃないだろうか。そんなことを悶々と考えてしまう。

(それに……裕ちゃん、彼女いないのかな……)

一緒に住むことを提案してくれるのだから、彼女はいないのかもしれない。
彼女がいるならば、いくら従姉妹とはいえ、異性を住ませたりしないだろう、多分。
けれどこれほどハイスペックの男を独身女子が放っておくはずはないとも思う。

直接聞けば、裕哉のことだから隠さずに答えてくれるのだろうが、あまりプライベートなことを聞くのは、やはり「部下」として憚られた。

(もし裕ちゃんに彼女がいたら……)

――ちょっとイヤかな、なんて自分勝手な気持ちが胸の奥底に横たわっていることも、自分で気がついている。
それを認めたくなくて、余計に聞く気になれなかった。

(裕ちゃんは私の神様だもん。ただそれだけの気持ち、それだけ……)


神様はみんなのもの。


それなのにやっぱり独り占めしたいと思うのは、人のもつ傲慢さなのだろうか。

鬱々と考え込む隣で、裕哉は「今日からよろしくね」とスマートな運転をしながら横顔のまま微笑んだ。
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