では、同居でお願いします
地下に駐車場が完備されている高級マンションの最上階に裕哉の部屋はある。

外観はもちろんのこと、エレベーターも高級感溢れる内装で、カジュアル過ぎる服装をした自分の場違い感が拭えない。

エレベーターに乗り込むと、なぜかいい香りがしている。
隅々まで心遣いの行き届いたマンションだ。

「裕ちゃん、本当に一緒に住んでもいいの? 迷惑じゃない?」

おずおずと問いかけると、裕哉はクッと喉の奥で笑った。

「あと一時間ほどで引っ越しのトラックも到着するのに、まだそんなことを言ってるなんて、海音ちゃんって案外往生際が悪いタイプ?」

「だって、仕事も住まいも何からなにまでお世話になりっぱなしで申し訳ないよ」

「気にしないでよ。半月ほどだけど海音ちゃんの働きぶりを見ていて僕は安心しているんだよ」

「安心? 何に?」

ん~、と少しだけ考えて、今度は目元を緩ませて優しく微笑んだ。

「真面目で一生懸命。真っ直ぐで精一杯。何でもそつなくこなせる。そんなところ」

「そんな……」

買いかぶりだよ、と言いたくなる。

そつなくなんてこなせないし、要領だっていい方ではない。

ただ採用の時期でもないのにいきなり社長秘書として雇われた自分を見る周囲の目を考えれば、いい加減なことなんて出来ないことは、誰に言われなくたって理解している。

裕哉の顔に泥を塗るなんてとんでもないことなのだ。

だからただひたすらに懸命に仕事を覚え、誰からも後ろ指をさされないように、前を向いて必死になっているだけだ。

裕哉の秘書はハードワークではあるが、要領のいい諸岡さんなら一人でも充分にこなせる。
それ故、今まで秘書一人体制でやっていたのだろうに、そこに無理やりに入れてもらったからには、足手纏いにだけはなりたくない。
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