では、同居でお願いします
「み、海音ちゃんは……それで仁のことを……」

「いえ、私は――」

言いかけて途中で口を閉ざす。

いくらなんでも好きではないとは本人の前では言えない。


「……上司として尊敬していますが」


微妙な言い回しになってしまったのは仕方がない。これでも上手く言えたと思う。

クイッと眼鏡を押し上げて、諸岡さん自信満々に告げた。

「と言うわけで、私たちがお付き合いすることにはなんの障害もないのです」


(待って! なんか話を上手いことまとめにかかってるけど、障害だらけです!)


裕哉はガクリと項垂れているように見える。

その姿に少しだけ希望の光が胸に射し込み、けれどすぐにそれは違うと否定する。

(裕ちゃんは兄のような気持ちで私を見ているから、妹がお付き合いすることに少し驚いているんだろうな……)

半分死にかけたような顔をした裕哉が、ボソリと言った。

「……社内恋愛……禁止」

「そんな規定はありません」

ピシッと諸岡さんにはね除けられる。

けれど裕哉はまだ足掻いていた。
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