では、同居でお願いします
「仁、わかった! そうか、そうだね」

何に気がついたのか裕哉は目を輝かせ、そのことに諸岡さんは眉を寄せる。

いぶかしむ諸岡さんの肩をがっしりとつかんだ裕哉は嬉しそうに告げた。

「ありがとう、仁。そうか、いままでの僕に足りないのは押しと粘りだったんだ。よし、もうわかった」

うんうんと頷くと裕哉は輝いた瞳のままで私へ顔を向ける。

(わあぁ、すっごく的外れなことを考えているっぽい笑顔だ)

この爽やかそうな好青年の微笑みを浮かべている時は、たいがい的外れだ。

仕事中はビシッと的確でキビキビとしているのに、プライベートでこの笑顔を見せる時には、痒いところに手が届かないどころか、背中が痒いのにお腹を掻いているほどのかすりもしない思わぬ思考に走っている。

「海音ちゃん、今日は僕がマンションまで送るからね」

にこやかに裕哉が告げた途端、私はあわや突っ込みそうになった。

(ここまでの話、聞いてた!? 色々な流れがあったよね? もしや聞いてない!?)

朝の時点に話が戻っている!

諸岡さんの「お付き合いします」やら「一生守ります」やら、全部なくなってるんですけど!
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