では、同居でお願いします
「経緯を知らない人が口を出さない」

(わああ、諸岡さん……もう命令してますけどね、先輩後輩、上司部下、どうでもいいの?)

いまや背中の汗が尋常じゃないほどダラダラです。

諸岡仁という人は、猫の皮を被ったライオンでした。ほぼ猛獣です。

(目がね……怖いんです。眼鏡の奥の瞳の鋭さが怖いんですよ、諸岡さん)

「井波さん? お付き合いくださるとおっしゃいましたよね?」

押している……押してきている、相当な圧力で。

あの、その、と言い淀む私の前に、裕哉がサッと手を出した。

「とにかく今日は僕が送って行って、ゆっくりと海音ちゃんからも経緯を聞くから、仁は遠慮して」

「しかし……」

しばし沈黙した後、諸岡さんは大きな溜息と共に「わかりました」と不服を含みつつ返事をした。


窮地を脱出したのかしていないのか、よくわからないまま、その時は無事解放された。

諸岡さんに続いて部屋を出た私は、彼の顔を見ないように社長室の扉を閉める。
しかしそんな些細な努力など通用しない。


「井波さん、ちょっといいですか?」


背中から深海レベルの圧をかけてくる諸岡さんの声に、私は抗える術などなかった。
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