では、同居でお願いします
(そうだね……感情なんてない打算の付き合いだもんね)

ふいに夢から醒めたように思考がクリアになった。

何をしているんだろう、とさっきまでの自分に言いたい。


私は諸岡さんの見下ろしてくる強い瞳に向き合い、はっきりと告げた。

「諸岡さん、申し訳ありません」

深く頭を下げ自分のつま先を見る。

恥ずかしくないようにと毎日磨いている黒のパンプス。

たった三カ月しかいなかった前の会社は社風もあり皆がラフな格好をしていたので、私も楽な靴を履いていたけれど、秘書として働き出してからはずっと黒のパンプスを履いている。


――海音ちゃん、いつも靴を綺麗にしてるね、ありがとう。


以前、裕哉は笑いながら言ってくれた。

裕哉が恥ずかしい思いをしないように、裕哉をきっちりと支えたい。

そんな私の気持ちにきっと気がついて言ってくれたんだ。ぼんやりしているくせに、人の機微には聡い裕哉は、ちゃんと私の気持ちに気付いてくれた。

裕哉が安心してくれるなら、諸岡さんと付き合おうと思ったけれど、それは違う。

感情のない打算の付き合いなんて、きっと裕哉は見抜いてしまう。そしてもっと心配をさせてしまう。


この靴と同じだと、もう一度つま先を見つめてから私は顔を上げた。
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