では、同居でお願いします
紀ノ川さんと裕哉を部屋に招き、コーヒーを淹れた。
「海音ちゃんのコーヒーはやっぱりおいしいね」
裕哉はいつものように無邪気に笑うが、紀ノ川さんの魂は抜けきったままだった。
「あの、コーヒーをどうぞ。少し落ち着くと思います」
控えめに勧めると、のろのろと私へ視線を動かす。
その瞳には、タスケテだのワカラナイなどの混乱の意味が含まれていた。
「裕ちゃん、説明してあげてよ。紀ノ川さん、混乱してるよ」
「そうだね。順を追って話そうか。海音ちゃんにも聞いてもらいたいからね」
もう一口、コーヒーを飲んでから裕哉は、彼女とのいきさつを語り始めた。
「彼女と出会ったのは――」
心地よい裕哉の声。そっと目を閉じて聞いてみる。
会社以外で、こんなにそばで聞けるなんて、嬉しい。
部屋が狭いせいで、裕哉の体温さえ感じられそうだ。
一緒に住んでいたときには、いつも頭をなでてくれて、時には抱きつかれたりして、いつだって裕哉のことを身近に感じていたから、離れていることが辛かった。