では、同居でお願いします
しなびたキュウリは、もはやしなびたを通り越して干されたキュウリのようにカピカピになっている。

「スミマセン、ワカリマセン」

やましいことを隠し通そうとする密航者のような口調になっている。

紀ノ川さんがだんだんと哀れになってきてしまう。

(この人、こんなにメンタル弱くて将棋のプロをやっていけるんだろうか)

棋士というのは相当厳しい世界だとのイメージがある。

勝負に明け暮れ、勝負がすべて。心理戦でもある厳しい世界。その中でこんなに弱々しい人が本当にプロであり続けられるのか。

ひからびたキュウリさんは、俯いたまま押し黙る。

「夕凪杯に出ていたあなたを、彼女は熱心に見ていました。その時はさすがに名人のお嬢さんだ、将棋がお好きなんだろうな、としか考えなかったのですが、その後も将棋の話になれば、必ずあなたの話題が彼女の口から出てきました。そのうち、彼女が自分で言ったのです。ごめんなさい、忘れられない人がいて、今はお付き合いを考えられないですと」

おとなしそうな声をしていた彼女。

けれどその芯は強い人なのだろう。

親の紹介で、しかも傷心の時に忘れたくて出会った相手に、きちんと断ることができるのは、自分の中に芯をちゃんと持っている人なのだろう。
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