では、同居でお願いします
慌てて始めた就職活動も功を奏さないまま一月が過ぎてしまい焦りに嫌な汗が浮く。

事情を話せば同情の色を見せる面接官だったけれど、大した資格もない売りもない既卒女子をほいほいと雇ってくれるところなどそう簡単には見つけられない。

(これがね、実家暮らしならここまで焦らないよ……)

重いため息にくじけそうになる。

今の私には職探し以上に差し迫った案件があるからだ。

それは、部屋探し。


学生時代からルームシェアをしてきた親友の美奈(みな)が来月結婚して部屋を出ることになった。
就職先で出会った上司との、あれよあれよと言う間の電撃婚約に、私も嬉しくて心から喜んだ。
幸せそうな美奈を見るのは私の幸せでもあった。

ただ一つ、大きな問題は住まいだった。

二部屋と十畳ほどのLDK、風呂トイレセパレートの部屋の家賃は決して安くはない。
二人住まいだったから今までは折半でまかなえたけれど、一人では到底捻出できそうにない。

しかも無職で無収入。
貯金をするだけの余裕もなく放り出された私には、このままこの部屋に住むことなど出来なかった。

古さや駅遠なんか気にせずに、とにかく安い物件探しに奔走しているけれど、ここにきて定職に就いていないことがネックになってしまっている。

そりゃあそうだろう、と自分でも思う。

自分が大家をしていたら、無職の若い女に部屋など貸さない。その気持ちは痛いほど理解できる。

(でも、でも、差し迫っているんです!! 誰か私に部屋をプリーズ!!)

田舎住まいだった親は今、海外で事業を立ち上げて実家は既に賃貸に出されて他人様が住んでいる。
安易に帰ることも出来ないし、出来れば戻りたくもない……。

「あそこには、良い思い出なんかないし……」

ぽつりと呟けば、痛い吐息が一緒にこぼれ落ちる。


中途半端な地方の町。中途半端な人数の学校。中途半端な交友関係。


逃げ出したいのは何からだったのか。
いつでもそこから離れることを夢想していた。
高校生の無力な私は、誰かがここから連れ出してくれると信じていた。


夏の日差しに紛れた苦い思いをかき消すように顔を上げた途端、背後から突然腕をつかまれた。


「ちょっと君、待って!」


驚いて振り返った視線の先には、スーツ姿の端正な顔立ちの男性が、息を切らせて私の腕をつかんでいた。

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