では、同居でお願いします
酸素が足りない魚のように何度か口を開いてから、ようやく声が出た。

「で、でも……泣いたから化粧が崩れてる」

「大丈夫、すっぴんでも可愛いし、寝顔も可愛いし、化粧崩れしても可愛い」

「いや、化粧崩れはさすがに……って寝顔って何? 見たことあったっけ?」

風呂上がりにすっぴんは晒していたけれど、寝顔を見せた覚えはない。

「ん? ああ、時々お部屋にお邪魔して、海音ちゃんの寝顔を見ていた」

さらっととんでもないことを裕哉は申された。

「…………覗き!!! それ覗き行為!!!」

お邪魔してじゃない!

絶対ダメ系の行動だ!

「だって可愛いもん。見たくなるもん」

(もん、じゃんない!! 二十七歳が言うな――っ!)


ダメだ、この人。


なぜ彼の恋愛が上手くいかないか、おぼろげに原因が見えてきた。

ギャップ萌えとかのレベルではない。
外見と中身の乖離が、悪い意味で激し過ぎる。

あらかじめ知っていた私でもこうして唖然とすることがあるのだ。

裕哉の外見に惹かれて付き合った人は、もれなく愕然とすることだろう。部屋の惨状を含めて。


はああ、と大きな溜息を零し、それから私は苦笑して裕哉を見つめた。
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