では、同居でお願いします
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水曜の夜、仕事を早めに切り上げた私たちはホテルのロビーにいた。
紀ノ川さんは私が、佐和乃さんを裕哉が連れ、ホテルの上層階にあるレストランに向かう。
私の隣を歩く紀ノ川さんはガッチガチに緊張しているが、それ以上に気になるのが、彼の服装だ。
なんと袴姿の和服で来ていたのだ。
「なんでそんな格好で!?」
驚いた私に、紀ノ川さんは「勝負となればやはりこれかと……」と一人頷いていたが、勝負の意味が違うと言いたかった。
しかしさすがに棋士を父に持つ佐和乃さんだ。彼の姿を見た途端に目を輝かせ、ポッと頬を染めた。
しかも関係のない裕哉まで目を輝かせ紀ノ川さんをうっとりと見つめていた。
(あれ? 私の方が感覚おかしい? これ格好いいの?)
自分の感覚が信じられなくなったが、周囲の注目度が間違いではないと物語っていた。
レストランでは紀ノ川さんのファンでもある裕哉により、将棋の話や他愛のない話でそれなりに盛り上がる。
将棋など全く知らない私だったけれど、思いの外退屈することなく話を聞くことができた。それは裕哉の知らない一面を見聞きすることが楽しかったからだ。
佐和乃さんは予想通り、とてもたおやかで育ちの良さが仕草の端々に現れており、優しそうな顔立ちをしているお嬢様だった。
裕哉と並んでいると似合いのカップルに見え、私は少なからず落ち込む。
けれど今は裕哉を信じようと、いくらか痛む胸を押し込んで彼女と向き合っていた。