では、同居でお願いします
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夜景が一望できる静かな席を裕哉が予約をしてくれていたので、夜景が綺麗だとかあそこに行ったことあるだとか、話題には事欠かず食事中も楽しく過ごすことができた。
やがて和やかだった食事が終わり、デザートが運ばれて来た時、おもむろに紀ノ川さんが佐和乃さんに頭を下げて言った。
「さ、ささささ佐和乃さささん!」
どうやら彼は今から佐和乃さんに気持ちを伝えようとしているようだが、口が全然回っていない。
(「さ」が多いよ! 落ち着いて、紀ノ川さん)
見ているこちらの方が緊張してしまうほど、紀ノ川さんは明らかに緊張している。
「あああの、ぼ、僕は……その、あなたが……あの、あれでして、その、そういうわけでして、はい。ですからして、あの、僕があなたをなんて……あの……」
(日本語になってないよ! 何一つ伝わっていないから)
頑張れと心の中で応援しているけれど、紀ノ川さんの緊張は彼の中のレッドゾーンを遙かに振り切っているようで、しきりに額の汗を拭きながら、口をパクパクさせるばかりだ。
しかし佐和乃さんは、フフッと小さな笑いを零した。
それはすみれの花のような清楚で可憐な優しい笑いだ。
彼女はそれから、可愛らしく首を傾げて紀ノ川さんに問いかけた。
「紀ノ川さん、私のこと、嫌いではないですか?」