では、同居でお願いします
グラスの片付けも終え、なんとか無事に食事を終えた後、ロビーで佐和乃さんは私と裕哉に深々と頭を下げ、お礼を言ってくれた。

「裕哉さん、井波さん、本日は私たちのためにお手を煩わせてしまいました」

「いいえ、佐和乃さんの想いがようやく実られて、僕も嬉しく思いますよ」

彼女を見る裕哉の横顔に、少しだけザラリと胸の奥がざわめく。

どれだけ自分は狭量なのだろうと呆れる。

(佐和乃さんは紀ノ川さんのものなのに、まだこだわるの?)

佐和乃さんの隣で紀ノ川さんはペコペコと頭を下げるばかりで、服装では一番目立っているのに、態度は一番下っ端のようだった。

「でも私、今日は井波さんにお会いできてとても嬉しかったの」

「え? 私にですか?」

いきなり佐和乃さんに指名を受けて驚きの視線を向けると、彼女は胸の前で両手を合わせながら上品な笑みを浮かべる。

「ええ、だってこんなに素敵な裕哉さんの想い人ですもの。お会いしたいと思っていたのよ」

「……え?」

(ちょ、え? 裕ちゃん、彼女に私の話をしていたの? しかも想い人って……そんな紹介まで?)

一気に顔が熱くなり、胸が早鐘を打つ。

(なんだか……嬉しい)

裕哉が「好き」の想いを寄せていてくれた証のようで、とても嬉しかった。

しかし彼女の続けた言葉に私は硬直する。
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