では、同居でお願いします

資料をプリントアウトし、綺麗に整え終えたところで諸岡さんが声をかけてきてくれた。

「今日は先に帰ってください。最近、かなり頑張ってくれていますし、少し疲れているように見えますよ?」

「それって外見がひどい有様になっているってことですか?」

思わず敏感に反応した私に、諸岡さんは紳士的な笑みを口元に浮かべる。

「まさか。それは大丈夫。井波さんは充分綺麗ですよ」

「またそんな社交辞令を。部下になんか気を遣わないでください。諸岡さんは全方位に向けて気遣いしすぎです。諸岡さんこそ少し休まれた方がいいですよ」

「いや、私は働いている方がホッとするくらいだから」

「それ、完全にワーカーホリックです。社長と同じ」

ははは、と笑った諸岡さんが、でも、と声を少しだけ落として告げた。

「綺麗だって言ったのは社交辞令じゃないですよ」

「え……」

驚く私に、諸岡さんはいくらかいたずらをたくらむような笑顔を見せ、それからポンポンと軽く肩を叩いた。

「でも今日はもう帰ってください。たまには早く帰って家でゆっくりしてくださいね」

そんな諸岡さんの気遣い溢れる言葉に、私の笑顔は引きつってしまう。


(でもね、家に帰ってもゆっくりなんかできないんですよ!)


なぜなら、ダメな人間が一緒にいるから。

柳井裕哉という、私生活ロクにできないダメ人間がいるから、家での仕事も満載なのだ。
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