では、同居でお願いします
片付けをするにしても裕哉に聞かなければゴミ一つ捨てられない律儀さが仇となり、なかなか片付けが進まない。

「好きに捨てていいよ」と言ってくれる裕哉だが、やはり紙一枚でも勝手に捨てるのは気が引けた。

(だいたい、捨てていいなら何でもかんでも置いておかないでよ!)

そう思いながら何枚もゴミ袋を消費していく。

掃除のみならず、洗濯、料理、何でもこなさなくてはならない。
コーヒー一つ淹れない人なのだ。一から十まで全てやるしかない。

「確かにね、家事が家賃とは言っていましたけどね、ここまでとは思わないでしょ」

食材の買い出しをしながらブツブツと文句をこぼす。

文句を言いながらも、簡単な朝食でさえ大仰なほど喜んで「おいしい」と食べてくれる裕哉の姿を見ていると、夕食もついつい張り切って作ってしまう。

「今日はハンバーグにしよう。サラダと野菜のポタージュでいいかなぁ」

少しだけ……ほんの少しだけ、新婚気分になってウキウキしているのは許して欲しい。

会社では人望厚く女子社員憧れの社長との同居はもちろん周囲には秘密。

なぜだかちょっとした優越感を覚えてしまう。

(まあ、扱いは家政婦なんだけどね)

その事実に苦笑しつつ、レジで支払いを済ませた。
< 22 / 233 >

この作品をシェア

pagetop