では、同居でお願いします
(あれで告白のつもり!? 連絡事項って言ったよね? 契約書とか規約とか、諸岡さん……あなたはワーカーホリックですから、一度有給取って休んでください!!)
裕哉も裕哉だが、諸岡さんも相当問題児だ。
彼の恋人になる人は、きっと色々と苦労しそうな気がする。
けれど、なぜか笑いがこみ上げてきた。
一人残された会議室の中、私はクスクスと笑いを零す。
「あの強引さが、プライベートの裕ちゃんとは相性がいいんだろうな」
そう思うと、諸岡さんの強引さがやけに頼もしく思えてしまった。
(でも、もう一度ちゃんとお断りしておかないとね)
きっと私は裕哉に愛想を尽かすことはない。
だから諸岡さんのご期待に添えることは……一生ないと思う。
――だって、裕ちゃんは私の救いの神様だから……
ゆっくりと一緒に歩いてくれると言ってくれた。
裕哉の呆れるほど生活力のないところも、だらしないところも、子どものようなところも、そしてバリバリと仕事をこなしている姿も、どんなところも大好きだ。
ただ一つ、心配になるのは裕哉との釣り合いの悪い自分。
(もっと……裕ちゃんがバカにされないように、自分を磨こう)
服もカバンも髪型も化粧も、どれも質実剛健を体現したような自分の姿に苦笑する。
お洒落に興味がないわけじゃないけれど、今までは後回しになっていた。
裕哉のために変わりたい。
そう切実に思う。
好きな人のために自分を変えることなんてバカみたいと思っていたけれど、本当はとても幸せなことなのだと、今、初めて気がついた。
(うん、頑張ろう)
決意をした私は、椅子から立ち上がると大きく伸びをした。
今までの井波海音が覆っていた膜を一つ脱ぎ捨てるように。