では、同居でお願いします


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「社長秘書の井波さん、お綺麗ですね」


お世辞をふんだんに含んでいるけれど、そう言われることが多くなった。

化粧と髪型を変え、服を変えただけで女は意外と変わるものだと実感する。

少しでも裕哉にふさわしくなれるようにと近頃は自分なりに頑張っているのだが、裕哉は「変わらなくていいのに」と少し不満そうだ。


私たちは来年年明けに結婚することを決めた。


いつまでも「同居」なんて言い訳しても「同棲」していることには変わりない。
いい加減に覚悟を決めてきちんとしなければと決心したのだ。

式には紀ノ川さんたちも来てくれることになっていて、裕哉にとってはそれが一番の楽しみのようだ。

それに諸岡さんも。


「紀ノ川七段ですか! それは楽しみです。ぜひ前回の棋竜戦の話をしてみたいですね」


などと結婚式ではなく彼に会えることを楽しみにしている。

諸岡さんは私を諦めないと言ってくれていたけれど、それとは別に裕哉が幸せになることは喜ばしいことだとは思っているようだ。

それに私は結婚すれば退社することが決まっている。

そうなれば密に諸岡さんと会うことも少なくなるだろうし、彼にはぜひもっと素敵な出会いをして彼に似合いの素敵な恋をしてもらいたいと願う。
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