では、同居でお願いします

いつもは十一時を過ぎなければ帰ってこない裕哉が、今日に限って早めに帰ってきた。

「お帰りなさい。今日は早かったんだね」

玄関まで迎えに出ると、裕哉は極上の笑みで「ただいま」と言いながら、いつものように私の頭をポンポンと優しく二回叩く。

これが一緒に住んでからの恒例になっている。

裕哉の大きな手のひらで頭を叩かれるのは心地いい。何だか労られているような感覚がするから、この瞬間が大好きだ。

けれど次の瞬間には深いため息に変わる。


「ねえ裕ちゃん! 何回も言っているけど、脱ぎながら部屋に入らないでよ!」


裕哉の悪いクセ。

ジャケット、ネクタイ、ワイシャツ……と点々と脱ぎ散らかしながら部屋へ行くのだ。
遭難しないように道に目印を落としていっているのかと言いたくなる。

なぜこの人は、仕事が終わると一気にダメモードになるのだろうか。

脱ぎ散らかされた服たちを拾っていると、リビングから嬉しそうな声が上がる。

「わあハンバーグだ! 美味しそう!」

リビングに入ると、キッチンでフライパンの中に並ぶ出来たてのハンバーグに目を輝かせている裕哉がこちらを振り返った。

「海音ちゃん、ありがとう! 僕、ハンバーグ好物なんだ」

(お子様ですか!)

キラキラと輝く純真な瞳の裕哉に、つっこみそうになりながら、それでも手放しで喜んでくれる素直さが嬉しくて、私も自然と笑顔になる。
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