では、同居でお願いします
バタンと扉が閉まる音で私はソファーから立ち上がり、裕哉を迎えるために玄関へと向かう。
先に休んでいいと言われていたけれど、なぜか眠れず、ぼんやりとソファーで見るともなくテレビの画面を流し見していた。
時間は午前一時。これまでで一番遅い帰宅だった。
「お帰りなさい」と迎えようとして、言葉を途切らせる。
それは今まで見たことのない姿を裕哉が晒していたからだ。
裕哉は、足元が覚束ないほど酔っぱらっていた。
「ゆ、裕ちゃん?」
裕哉は賢い人だ。
人当たりがよく無用に争うことはしないが、相手に流されることなく自分の意志をしっかりと主張する。
それも相手に不快感を与えぬよう、それでいてちゃんと納得できるように理論立てて話を通す様は、流れる水のように淀みない。
そんな裕哉は酒の席でも決して飲み過ぎることなく、上手に付き合いをしている。
「酒は人付き合いの潤滑油」
そう割り切って賢く利用しているようだ。
だからこそ、裕哉の酔った姿に驚いてしまった。
「海音ちゃん、ただいま」
案外しっかりした声だったが、次の瞬間、裕哉がぐらりと傾く。
「裕ちゃん! しっかりして」
慌てて差し出した手をつかまれ、そのままギュッと抱きしめられた。
いつものごとく裕哉はポイポイッと靴を脱ぎ捨てたけれど、注意をするどころではなかった。
裕哉の腕に閉じこめられた私の、早鐘を打つ心臓がうるさい。
驚きと緊張に体を固くした。