では、同居でお願いします
「お水を――」

取ってくるから、と言いかけた私を、裕哉は更にグイッと強く抱きしめた。

「僕と一緒にいるのはイヤなの?」

まるで子どものような問いかけに、不覚にもキュンとしてしまった。

お酒のせいだろう。
凛々しくも綺麗な裕哉の瞳が潤んでいる。

うっ、と喉の奥で呻いてしまった。

(なにこの破壊力? 心の奥底が破壊されてしまいそうですけど! ウルウルの瞳で見上げて可愛く懇願するのは、普通は女の子が使う手段じゃないの?) 

破壊力抜群の瞳で見上げて懇願してくる裕哉に頭痛がしそうだ。

この人を構わずにはいられない。世話をして、色々としてあげたくて仕方がない。
完全に世話焼きモードのスイッチを入れられてしまっている。

諦めに似たため息とともに苦笑しつつ裕哉の上着に手をかけた。

「……側にいるから、とにかく横になって。ほら、上着だけ脱ごうよ」

抱きつく裕哉の上着を脱がせると、ふわりと煙草の匂いが立ちのぼった。

(煙草? 裕ちゃんは吸わないのに)

裕哉に抱きつかれて心臓は早いリズムを刻んでいるのに、煙草の匂いを嗅いだ途端に、そすうっと体温が下がる気がした。

(誰と会ったの? そんなにお酒を過ごすほど……)


デートじゃなかったの?
それとも彼女とケンカでもしたの?
どうして私に抱きつくの?


聞きたいことが溢れているのに、言葉にすることができない。
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