では、同居でお願いします
「裕っ……」

「海音ちゃん、手、握ってていい?」

「んはぁ!?」

「ちょっとだけ……今日だけ。少し落ち込むことがあったんだ。今日だけ甘えさせて」

見上げてくる裕哉の瞳に吸い込まれそうになる。
甘く蕩けるような綺麗な瞳は、きっと私にとっては強い毒でしかない。
頷くことも首を振ることもできないで、裕哉の前に立ち尽くす私は、蜘蛛の巣に捉えられた蝶と同じ。

気がつけば手を引き寄せられ、裕哉と一緒にベッドに倒れ込んでいた。

「……なっ」

(待って! 手を握っていいかって聞かなかった!?)

どう考えても「手を握る」のステージを飛び越えている。これは規約違反だ。

ありえない状況に叫びたいのに喉の奥で声は絡まってしまう。
ただ目を丸くして裕哉の胸に深く抱き留められているしかなかった。

「海音ちゃんがいてくれてよかった」

呼吸に合わせて緩やかに動く裕哉の胸から直接流れ込んでくる声に、息を止める。

「わ、私が?」

「うん、本当に助かっている……仕事も家事も……ああ、違うな……ええっと……落ち込んだ時、助かると言うか……んん……なんて……言うか……」

モゴモゴと告げる裕哉の声が小さくなっていき、その後は静かになってしまった。

ゆるりと顔を上げると、裕哉は目を閉じて穏やかに寝息を立てている。

「裕ちゃん?」

そっと声をかけたが、裕哉はもう眠りの世界へ落ちていったようだった。
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