では、同居でお願いします

今、心が泣いている。

(わかってる、わかってるの)

こんなに切なくて悲しいのは、自分で気がついてしまったから。


――ただの同居人の家政婦でいることが、堪らなく悲しいと。


欲張りになる心。

裕哉の特別を求めてしまう気持ち。
彼の優しさも温もりも、誰かのものになるのが辛い。


彼は神様じゃなかった。

自分では何もできないダメな人だった。


だからこそ……好きになってしまったのかもしれない。


完璧な神様だったとしら、遠すぎてこんな気持ちは抱かなかったんじゃないかと思う。
どちらにしろ、もう後の祭り。

(裕ちゃんへの気持ちに気がついてしまったから……一緒にいるのは……もう辛いよ)

耳をそっと押しつければ、規則正しく刻んでいる裕哉の胸の音が大きく響く。


ああ、愛しい。
この、てんで私生活がダメな人が愛しい。

そして悲しい。
憧れの人が誰かを選ぶのが悲しい。


ゆっくりと体を起こしたけれど、熟睡に入ったのか裕哉の腕は簡単に解けた。

安堵すると同時に寂寥が胸を駆け抜ける。

しばらく眠る裕哉を見下ろして、それから私は静かに立ち上がった。
この家を出ることを決意しながら。


「お休みなさい、裕ちゃん」


掛け布団をかけてから、裕哉の部屋を後にした。
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