では、同居でお願いします
捨てる神あれば拾う神あり。
古来より伝えられた言葉に偽りなし。

しみじみと実感しながらクーラーのよく効いたオフィスの一室で、出されたアイスコーヒーに手を伸ばす。

「海音ちゃん、大変だったね」

向かいに座った裕哉の優しい言葉に不覚にも涙が出てきそうになる。
アイスコーヒーを一口飲んでから、改めて裕哉を見つめた。

五つ年上だったので、今二十七歳のはずだ。
男盛りの程よい色気と凛々しさが同居しているのにとても爽やかだ。

「たまたまだったんだよ」と前置きし、裕哉は呼び止めた経緯を説明してくれた。

エレベーターで一緒になった面接官が持っていたエントリー用紙の名前を何気なく見せてもらって驚いた、と。

「井波海音って、ありふれた名前じゃないからね」

「それで裕ちゃん、わざわざ追いかけてきてくれたの?」

「そりゃあ、僕の会社に従姉妹が来てくれたなら、追いかけるでしょ」

クッと引き上げた口元も魅力的だった。

きっとモテモテなんだろうな、なんて考えつつもう一口アイスコーヒーを含む。

この外見にして中堅システム会社の社長なのだ。
さらにここ数年は、立ち上げたアプリがヒットして会社もグンと大きくなった、将来性抜群で有望株の会社だ。

確かに叔父さんは社長だと聞いていたけれど、小さな電気関係の会社だとか何とか、そんなことしか記憶になかった。

まさか従兄弟の会社に面接を受けていたなんて、そんな偶然に自分でも驚く。

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