では、同居でお願いします
暑くも寒くもない心地良い風が頬を打つのに、体は熱を奪われて寒気を覚えて震える。
しばらく歩くと小さな児童公園が見えてきて、私は吸い寄せられるように足を踏み入れた。
小さなブランコと滑り台、それに砂場があるだけの申し訳程度の公園。
木製のベンチに腰を下ろした途端、もう立ち上がれないような気がした。
どれほどの時間、そのベンチに座っていただろう。
やがて光は徐々に黒に浸食されるように辺りが暗くなってくる。
いつまでいても、気持ちは乱れたままで立ち上がれなかった。
(このまま……逃げていても仕方ないよね)
部屋の仮押さえは済ませている。
現状空き家であるあの部屋には、契約さえ終えればすぐに入居できるはずだ。
よし、と声に出してから立ち上がる。
「前向きに考えよう。うん、だいたい従兄弟とはいえ同居しているのが不自然だったんだよ。従兄弟なのに好きになるとか……不自然だったんだよ」
言葉が自分の胸を刺すのに、紡ぐことをやめられない。
「あんなカッコイイ人、みんな放っておかないよね。私では不釣り合いだって知ってるよ。それに社長に恋するとか、私、バカじゃないの? 有り得ないよね、ほんと」
ふふっ、と笑えば鼻の奥がツンとした。
「さあ戻ってご飯の準備しなくっちゃ。出て行くまではちゃんと家政婦として裕ちゃんのお世話はしなきゃ」
風が吹いて髪を柔らかく乱す。
――さあ、戻りなよ。
そう告げられたようで、私は一つ頷くと、小さな児童公園を後にした。