では、同居でお願いします
翌週、いつもの通り十一時過ぎに帰宅した裕哉が夕食を終えると、時刻はもうすぐ日付を越えようとしていた。
コーヒーを飲みながらソファーで資料を読んでいる裕哉に声をかけた。
「裕ちゃん、ちょっと話があるんだけど、今、いい?」
「ん? いいよ、なに?」
顔を上げ私を見上げてくる裕哉は、とても色気がある。
私生活ダメ人間で、少年のような無邪気な姿などどこにも見えない。
今から告げる一言によって、もうあんな裕哉の姿を見ることはなくなってしまうのだと思えば、心が重たくなるのを感じた。
「私……来週、引っ越ししようと思うの」
仮契約だったマンションの契約を、一昨日の土曜日に済ませてきた。
もう鍵も渡され、いつ入居してもいい状態になっている。
荷物の準備さえ終われば、明日にだって引っ越してもいい。
私が告げた後、裕哉は「は?」と言ったきり、口を閉ざしてしまった。
シン、と広いリビングに沈黙が落ちる。
居たたまれない空白に、何か言い足さなければ口を開きかけたが、バサバサっという音に遮られた。